2014年4月1日火曜日

4月論文

今日は4月1日である。「エイプリルフールで嘘をついていいのは午前中だけ」という話をきいたが,これの根拠がイマイチわからなくて,この説自体エイプリルフールの嘘ではないか,という説がでているそうな。しかし,それもエイプリルフールの嘘では…(以下略)。

ということで,エイプリルフールの話題の前に,例のSTAP細胞事件について。「STAPってなに?おいしいの?」という方は賢者ググレカスに相談してください。で、例の論文のデータがどうもあやしいという話をきいたときに,不思議に思ったひとも多いのではなかろうか? だって,超一流の科学雑誌に掲載されて「ノーベル賞級」とさわがれる内容だと,多くの研究者の目にとまって,だれかがすぐ追実験をして,同じ結果がでなければすぐにバレるのではなかろうかと思うわけだ。そういう論文をわざわざ発表するだろうか?

以下は件の論文になにか不具合があるという前提のもとの,まったく無責任な推測なのだが,ナカムラの思うに主著者たちは実験結果がイマイチでも,本気で万能細胞ができた,あるいはこの路線で行くと近い将来できると考えていたのではなかろうか。きくところによると刺激によって万能細胞をつくるというアイデアは結構昔からあるらしく,理研のグループの専売特許ではないそうな。ということは,もし,うまく行きそうな手法をみつけたら,一刻もはやく「つば」をつけとかないと,他のやつに先をこされるかもしれない。研究業界は、それこそ「二番じゃなめなんですか」という世界で、評価されるには一番乗りが最重要なのだ。

先日読んだ「4%の宇宙」という本では,宇宙加速膨張の証拠をつかんだグループのメンバーが,まだデータ数が少なくて確証がもてないのだが,それでも発表すべきかどうかで激論するシーンがある.ライバルグループに先をこされそうだったからだ。この本によると彼らはあきらかにノーベル賞を視野にいれて,しのぎをけずっていたのである(結局,ノーベル賞は両方のグループでわけた)。こういう状況は悩ましいだろうなあ.もし当りなら大当たりなわけだが,はずれならば大恥をかくことになる。いや今回のSTAP細胞事件は大恥ではすまないことになりそうだ。

ということで,科学者たちは,はずれた場合の傷をなるべく少なくしようという工夫をするわけだが,これがエイプリルフールである,あ,話題がもどってきた。つまり,論文の投稿を4月1日にして,当たればそのまま大きな顔をして,はずれた場合は「いや,エイプリルフールでんがな,てへっ」とばっくれるのである。これはかなり分野によってちがうが,なかには「4月1日受理の論文は信頼度がひくい」というのが暗黙の了解という業界があったりする。そういう分野では,論文を読む時にまず受理日をチェックするそうな。

そういう「4月論文」で有名なのが、1993年にノーベル賞を受賞したH.ロムッテロのいわゆる「ロムッテロ効果」の論文である。彼は「もう少し実験を続けて確証を得てから発表するべきだとわかっていたが,とりあえず先取権確保のためにレターペーパー(速報論文)を書き、編集者にたのんで受理日を4月1日にしてもらった」と受賞記念パーティーのスピーチで語っている。勝てば官軍ということですね。こういうノーベル賞までいった大発見はまれだが,ちょっと自信のない論文発表の時期がたまたま春だった場合,受理日を4月1日にするのは広くおこなわれているらしい。アメリカの一般向け科学雑誌Scientific American(日経サイエンスのネタ元)が2003年に主要科学論文誌1000誌を対象に行った調査によると,4月1日が受理日になっている論文の数は他の日に比べて約1.6倍多いという結果になったそうだ。

というわけで賢明な読者諸氏はもう気づいたと思うが、この記事は4月1日の午前中に書かれている。まさか「ロムッテロ効果」とか信じたひとはいないでしょうね。