2014年7月19日土曜日

早稲田・小保方問題

ナカムラはtwitterを使っているのだが,一昨日の昼過ぎからタイムラインが小保方博士号に対する早稲田の対応関連でわきかえって大変なことになっている。「小保方」+「早稲田」などのキーワードで検索してもらうとわんさかヒットするのだが,たとえばこんな感じである。

実はナカムラは,このような話題をネットで扱うのは意図的に避けているところがあり,小保方疑惑が浮上した時から,twitterやfacebookなどでこの件ついてほとんど言及していないと思う。これは理由があって,つまり,当事者でもない者がネットやマスメディアの情報だけで悪者批判をするのがあまり好きではないからだ。しかし,今回の早稲田大学の対応については,科学というものを職業にしている以上,なんらかの意見表明をすべきだと考えてこれを書いている。つまり,自分も広い意味での当事者になると思うからだ.いつになく真面目タッチなのはそのためである。

ナカムラのみた範囲で,ネット上で反応した科学関係者は,ほぼすべて「こりゃ全然ダメだ」というものだったが,「博士号の授与決定権は早稲田大学にあるのだから,どう決めようといいではないか」というようなごく少数の意見もあった。これはこれで正しい意見で,博士号についての決定は大学の権利であり,どう決めようと早稲田の勝手である。ただし,公的機関である大学がその権利を行使したからには,その結果について種々の論評をされるのは当然の帰結であり,それでタコ殴り状態の批判をあびるのなら甘んじて受けるべきである。つまり博士号剥奪をしないのも,それに対してタコ殴り批判をするのも,両方とも正当なことだと思う。

というわけで,このページでタコ殴りの末席に連なるわけだが,自分が思うようなことはたいていどこかででていて,たとえば上でリンクしたページのtwitterの反応などをみていただきたい。あるいは検索すれば大量にヒットする。では,なぜわざわざこんなページを書いているかというと,「こりゃ全然ダメだ」という意見をもつものがここにも一人いるという表明である部分が大きい。つまり,上でのべたように博士号に関しての決定権は大学にあるが,その決定に対する反対意見がこんなにたくさんありますよ,というのは重要なことだと考えるからである。みんなもだまってないで意見表明しよう。このページのように個人blogで小数の読者しかいなくても,そういうページがたくさんできると多くのひとに広がると思います。

ひとつふたつ補足しておくと,小保方氏本人より早稲田の対応のほうが,はるかに問題だと思う。科学といえども人のいとなみである以上,研究上不正を行うものを根絶するのは無理で,これは如何ともしようがないのかもしれない。「世に盗人のたねはつきまじ」である。問題はそれが発覚した時にちゃんと自浄作用がはたらくような体制になっているかどうかであろう。早稲田がなぜ博士号剥奪をしないかについては,いろいろと取り沙汰さてているが,とにかく,このままでは全くもってまずいと思う。

もうひとつ,ナカムラが目にするネット上の意見の多くはいわゆる「コピペ」を問題にしていたが,それよりも科学的に虚偽の記述があることのほうが深刻ではなかろうか。たしかに剽窃は科学者倫理からすれば完全にアウトだが,事実でないことを論文にするほうがよっぽど罪が大きい。たとえば実験結果です,といって企業のウェブサイトからとった画像を載せていたというのが本当だとしたら,とんでもないことである。

最後に大学業界以外のひとが誤解するといけないので書いておくと,大学というのは企業のように全体で統一された意思決定をするわけではなく,百貨店のような学科単位あるいは研究室単位の自営業の集まりみたいなものである。したがって,今回,早稲田のあるセクションが「全然ダメ」ということになったとしても,ほかにちゃんとしている早稲田の研究者のほうがはるかに多いということを理解してほしい。そして,早稲田のまともな研究者のみなさんは,あらゆるチャンネルを通じて不服申し立てをしてほしい.

付記(7月21日)
このページを公開後,早稲田大学で働いている知人から「大学としての決定はまだで,これから報告書を元に先進理工研究科の議論,必要なら全学の研究科長会の審議を経て,決定されると説明されています」と知らせていただいた.報告書をうけた上層部の英断を期待する.

2014年7月7日月曜日

変分法でオイラー・ラグランジュ方程式を出すときに端点の条件は必要か?

また更新が滞ってしまった,ひさびさに書きます。先日,解析力学の計算をしていて,ちょっと疑問なことがあって,twitterに書いてみると,あっというまにその筋の碩学からコメントがたくさんついて,ナカムラが席をはずしている間にあっさり解決してしまったということがあった。で,せっかくだからとtogetterにまとめたら,これにもさらにコメントをもらったりして,なんというか便利な世の中になったものよのう,と思ったわけである。そのうちSNSを介した共同研究とかいうのが普通になったりするんじゃなかろうか。

で,その内容だが「変分法でオイラー・ラグランジュ方程式を出すときに端点の条件は必要か?」(togetterへのリンク)というもので,たいてい(ナカムラがみた範囲ではすべて)の力学の教科書に書いてある,とある方程式を導出するときに使う条件が,実はなくてもいいのではないか,という疑問であった。碩学の意見の一致するところによれば,この条件は全体の理論構築には重要なのではあるが,その方程式の導出という部分では確かに必要ない,ということである。うーん,学生のころになんの疑問もなく受け入れていた話でも,よく考えてみればこういうことにも気がつくのであるなあ,大人になるとはこういうことかと感慨にひたった次第である。

そして,さらに驚いたのは,このtogetterが結構多くの人に読まれているということである。今日(7月7日,七夕だ!関係ないけど)見たら3630viewもされている。びっくり。いや,たとえば相対性理論だとかブラックホールだとかの“人気アイテム”だといろんな人が興味をもってくれそうだが,解析力学などという地味な話題でもそれなりに読んでもらえるものだなあ,と思った。


それとは別にいつもあるよなあと思ったのは,この経緯をtwitterなどで見た物理とは関係ない友人何人かから「なに言ってるかさっぱりわからん」という感想をもらったことである。これは,昔から物理関係の仕事内容を同業者以外にみられたときにくる定番の反応で,物理や数学で食っているひとのほとんどは経験したことがあるのではなかろうか? しかし,考えてみると不思議なことで,たとえば音楽の経験のない者がプロのピアニストにむかって「わたしにはさっぱり弾けません」とは普通言わないだろう。

つまり,その道のプロがかなりの努力と年数をかさねて獲得した商売上の技について,普通なら素人がそれをできるかどうかなど考えないのだが,物理とか数学(ほかの学問でもあるのかな?)に関しては「さっぱりわからん」と言ってしまうわけである。こちとら長年の修行でやっと身につけたワザなんだから,簡単にわかってもらったら困るんだが,といつも思う。いや,別に不愉快に思っているわけじゃないのですが,どういう心理からそのような反応になるのか考えると面白い。たとえば医者の手術とか,棋士の将棋とか,いろいろなプロの技に対して内容によってリアクションの性質が違うとすれば,なぜなのか考えるのはなかなか興味深い話ではある。

ということで,もとのtwiter上での議論にもどるが,この問題に気がついたのは変分法で停留値を求めるプロセスを多変数に拡張したらどうなるか,ということを考えていたからである。変分法を汎関数微分で書くと,ある点での変分はデルタ関数を含むようになるので,境界の値は関係なくなるのではなかろうか,と思った次第である。うーん,さっぱりわからん。

*)この多変数の変分法に関してメモを書いたので,興味のある方は読んでコメントをいただければ嬉しいです。togetterの内容とは直接関係はありません。間違いなどあったらご教示のほどを。